「りゅうおうのおしごと!」の15巻を読みました。今回も驚きの展開がたくさんあり、とてもおもしろかったです。八一とあいの居場所が決まり、新章が本格的に始まったと感じます。そんな15巻を7つの注目トピックに分解して、徹底解説していきます。
私は将棋アマ四段で、プロ将棋界も20年ほど見つづけているガチの将棋ファンです。「現実の将棋界とそんな関係があるのか!」と発見してもらえるように、将棋界の知識を交えつつ、本編のネタバレありの感想を書きます。
ちなみに冒頭のイラストは自作です。「りゅうおうのおしごと!」については他の巻の感想も書いているので、こちらからどうぞ。
「りゅうおうのおしごと!」15巻の7つの注目トピック
「りゅうおうのおしごと!」の15巻はこちらです。
15巻も盛りだくさんの内容でした。前巻までは銀子が物語の中心にいましたが、その銀子が表舞台からいったん退場しました。そのぶん他のキャラクターたちがイキイキと動き始めた感じです。
14巻のラストにものすごい急展開があったので、15巻で何がテーマとなるのか、事前に予想できた部分はありました。しかし一方でまったく予想外のことも起きました。その代表が鹿路庭珠代(たまよん)と山刀伐尽の活躍です。
以下の7つの注目トピックについて、それぞれ詳しく語っていきます。
- 万智の手番
- 天衣と八一の同居
- たまよんと山刀伐の活躍
- あいのタイトル挑戦
- 歩夢のプロポーズ
- あの棋書のモデルとは
- 特装版が電子書籍にも
それでは順に見ていきましょう。
①万智の手番
15巻の主役は、なんといっても供御飯万智です。以下の3つの視点から語ります。
- 予告されていた万智の手番
- あふれ出る万智の魅力
- 銀子には勝てない万智
予告されていた万智の活躍
15巻で万智が活躍することは、14巻で予告されていました。14巻のラストの「供御飯万智の手番(ターン)」という印象的な言葉と、ゾクッとするイラストによって、15巻で万智が八一に何らかのアプローチをすることはわかっていたのです。
万智が取った行動は、八一に単に恋愛のアタックをするのではなく、棋書の出版を持ちかけるというものでした。自然な形で八一と二人っきりの時間をたくさん作ることに成功するあたり、万智の巧妙さがわかります。さらには旅館で八一と何日も過ごす状況も作り出して、まさに「万智の手番」の15巻でした。
ちなみに万智の師匠の加悦奥七段は「老師」と呼ばれています。リアルな将棋界で老師といえば、河口俊彦さんですね。対局よりも観戦記に力を入れたなど、まさにそのままモデルになっていて、将棋ファンはニヤリとしてしまいます。
「じつは編集長が万智の師匠だった」というのが最後になって明かされるという仕掛けも、「そうきたか!」と楽しめました。
あふれ出る万智の魅力
万智はもともと人気のあるキャラクターです。Twitterで14巻の感想を見ているときも「万智がいちばん好きです!」という人をたくさん見かけました。1そんな万智の魅力が、色々な角度から描かれた15巻でした。
女流タイトルホルダーでありながら、観戦記を書くだけでなくタウン誌の記事まで書いて、しかも大学生。すごく多才な女性ですね。しかも美人でお嬢様ですから、超ハイスペックなキャラクターです。それでも「りゅうおうのおしごと!」は他にも将棋の才能のある美少女やお嬢様だらけなので、それほど無茶な設定に思えないのがおもしろいところです。ちなみに観戦記で活躍する関西の女流棋士としては、山口絵美菜さんがいます。
小学生が活躍する「りゅうおうのおしごと!」の中で、万智は「大人の魅力」担当ですね。その意味では桂香さんに近いです。タイトルホルダーではあるのですが、あいや銀子の圧倒的な才能に太刀打ちできないところも、桂香に似てしまっています…。
私は万智の京都弁が、かわいくて好きです。「はい」というところを「あい」と言うのとか、なんだか良いなと思います。「りゅうおうのおしごと!」は大阪が舞台ですが、関西弁をしゃべる人はあまり多くなくて、他の方言を話す人もほとんどいません。たまに「だらぶち」とかがネタになるぐらいです。そんな中で京都弁でしゃべりまくる万智はちょっと特別な感じがします。
銀子には勝てない万智
万智は八一にはっきりとアタックしたのですが、けっきょく八一には受け入れてもらえませんでした。万智が全裸で迫っても動かないとは、八一おそるべし。「万智の手番」は結果に結びつかないまま終わってしまって、フラれた彼女の心情を考えると悲しいです。まあ八一はすでに銀子を選んでいるので、万智に手を出すとドロドロの展開になってしまうため、当然の結果ではあるのですが。
やっぱり万智は八一にアタックするタイミングが遅すぎました。せっかく手番が来ても、もう逆転は不可能だったのです。ではなぜ手遅れになったかといえば、小学6年生のときに2年生の銀子に将棋で負けたことに原因があります。そこで「二度と八一って呼ぶな」と約束させられたのです。
早めに万智を牽制した銀子の対応は、大正解でした。あの一局の結果が逆だったら、恋愛の勝敗も逆だったのかもしれません。「銀子さえいなければ…」という万智の気持ちは、15巻全体を通して痛いほど伝わってきました。
②天衣と八一の同居
15巻では、天衣と八一が同居することになりました!天衣のエピソードについて、以下の3つの視点から語っていきます。
- まさかの天衣との共同生活
- ちゃっかり晶さんも一緒
- 将棋会館とスポンサー、現実世界とのリンク
まさかの天衣との共同生活
天衣は14巻の最後に、孤独になってしまった八一の前に現れました。そのときは「私じゃ、だめ?」と言って珍しく純真可憐な少女の姿を見せていたのです。ところが15巻では、あっという間にその態度を一変。天ちゃんはいつものツンツンした天ちゃんでした…。
新しいマンションは天衣が提供してくれるのかと思ったら、八一が購入することになっており、ちょっと気の毒でした。アパートを買収して追い出したうえに、高額マンションを売りつけるって、普通に悪徳商売ですね。夜叉神グループは恐ろしいです。
あいとの同居を始めるときは「同棲じゃなくて内弟子です!」という言い訳が何度も出てきましたが、今回は内弟子という言葉は一切なし。もはや女子小学生と暮らすことがノーマルになっています。15巻では八一と天衣の共同生活のエピソードは、あまり描写がありませんでした。16巻以降に期待です。
ちゃっかり晶さんも一緒
天衣との同居では、晶さんもちゃっかり一緒です。晶さんも八一と仲がいいので、同居はうれしいことでしょう。晶さんは初心者ながら将棋もがんばっているし、好感度が高いキャラクターです。すでに「魚の餌作り」など色々な仕事をしているのに、家事までできるとは、かなりの努力家だと思われます。
将棋も晶さんは家事をするときはメイド姿なのだそう。作中ではあまり描写されませんが、晶さんはけっこうな美女らしいので、メイド姿になればいい感じになりそうです。イラストを見てみたいですね。
せっかく晶さんが作った料理について、八一のコメントが一切ありませんでした。ぜひ「おいしい」とか感想を晶さんに言ってあげてほしいと思います。
将棋会館とスポンサー、現実世界とのリンク
「りゅうおうのおしごと!」は、リアルな将棋界に起こった時事ネタを素早く取り込んでいます。天衣も絡んだ「関西将棋会館の移転」と「女流棋戦のスポンサー」は、いまの将棋界でもホットな話題です。
関西将棋会館はいまの場所から高槻市に移転することが、正式に決まったばかりです。また女流棋戦では、不動産業のヒューリック株式会社によって、過去最大規模の女流棋戦である「白玲戦」が創設されました。さらにはヒューリックが過去に創設した清麗戦は大成建設に引き継がれており、将棋界と不動産業界の結びつきが強まっています。
こうした将棋界の動きをさっそくストーリーに盛り込むあたり、「りゅうおうのおしごと!」はスピード感があるなと思います。八一のアパートやマンションの話によって夜叉神グループの不動産業に注目させ、それから将棋会館やスポンサーの話に持っていったのも、うまい流れでした。
③たまよんと山刀伐の予想外の活躍
15巻で意外な活躍をしたのが、山刀伐とたまよんです。万智と天衣の動きはある程度は予想できていましたが、山刀伐とたまよんに関しては、こんなに物語に深く食い込んでくるのは思っておらず、心地よい驚きがありました。
二人とも物語の初期から登場しているキャラクターであり、読者としても愛着があります。以下の3つのポイントについて語っていきます。
- たまよんは実は良い人だった
- タイトルを獲れない山刀伐の苦しみ
- たまよんの山刀伐への告白
たまよんは実は良い人だった
15巻ではたまよんが実は良い人だったと、細かく描写されました。初登場した4巻から「かわいくて巨乳でファンから人気があるけれど、じつは腹黒くて他の女流棋士からは嫌われている」キャラクターとして描かれてきたたまよん。この15巻で一気に好感度がアップしましたね。
他ではあまり描かれることのない、女流棋士ならではの悩みが語られるという点でも、たまよんの話は貴重だと思います。たとえば以下のような話ですね。
- ファンに待ち伏せされる
- イベントで心ないことを言われる
- 生理で苦しむ
たまよんには明確なモデルはいないと思いますが、YouTubeで大人気なあたりは香川愛生さんがイメージに近そうです。たまよんのエピソードからは、人には色々な面があるのだと気付かされます。人気がある女流棋士は華やかで、人にうらやましがられるような存在でありつつも、表面からは見えない悩みや苦しみもあるのでしょう。
また一方で、ある面から見れば嫌われて当然の存在でも、別の面から見れば尊敬するべきすばらしい人になります。だから人に勝手にレッテルを貼って、決めつけるのはダメですね。そんなことをたまよんは気づかせてくれました。
タイトルを獲れない山刀伐の苦しみ
15巻では山刀伐尽の内面も深く語られました。3巻で初登場した山刀伐は、A級棋士として強さを強調されながらも、どちらかというと才能のある若い男が好きな「両刀使い」として、ネタキャラの扱いでした。
それが15巻では、彼が「タイトルがあと一歩で獲れない」ことに本気で悩んでいることが明かされたのです。名人を含む最強世代の少し下の世代の苦しみは、現実の将棋界をそのまま反映しているので、その意味でも興味深く読みました。
リアルな将棋界では羽生善治さんを中心とする「羽生世代」があり、以下のようなトップ棋士たちがいます。
- 羽生善治
- 佐藤康光
- 森内俊之
- 郷田真隆
- 丸山忠久
- 藤井猛
この「羽生世代」のわずか2歳ほど下にも、強い棋士がそろっているのですが、彼らはあまりタイトルを獲れていません。勝ち進んでいくと必ず羽生世代の棋士がいて、そこで負かされてきたからです。その世代の棋士の例を挙げると、以下の通りです。
- 久保利明
- 深浦康市
- 屋敷伸之
- 三浦弘行
- 木村一基
- 行方尚史
山刀伐さんは、まさにこの世代のイメージです。久保利明さんをモデルとした生石九段が奨励会同期にいるあたりも、まさにぴったりですね。私としては山刀伐さんのモデルとしては、行方尚史さんが最もイメージに近いです。行方さんもタイトルを一度も獲れていません。
15巻を読むと山刀伐さんを応援したくなりますが、次のタイトル戦がよりによって名人戦では、奪取は難しそうです。なぜなら「りゅうおうのおしごと!」において名人は、名前すら明らかにされていないキャラクターだからです。そんな彼が「名人」のタイトルを奪われては、名人を名人と呼べなくなって、物語が混乱してしまいます。
そのため山刀伐さんが名人を奪取できる可能性はかなり低そうです。名人は四冠なのですから、盤王のような呼び方に関係のないタイトルであれば、奪われてもあまり問題はありませんでした。山刀伐さんにとっては15巻の盤王戦は大チャンスだったので、逃してしまったのは痛いです。
たまよんの山刀伐への告白
15巻ではたまよんと山刀伐の関係も細かく明かされました。この二人がどんな関係なのか、読者が気になるように伏線が貼られていたのですが、今回ですっきりしました。ひと言で言えば、たまよんが山刀伐に片想いしているんですね。
たまよんは勇気を出して山刀伐に告白しましたが、そのまま受け取ってもらえたわけではない様子でした。二人の微妙な関係は続いていきそうです。
私が思ったのが、たまよんの告白のタイミングはイマイチでは、ということです。山刀伐が名人挑戦を決めた直後、かつたまよんが挑戦権獲得に失敗したタイミングだったわけですが、それで連想したことがありました。法学部の友人から聞いた話ですが、司法試験で女が不合格で男が合格した場合、女が男に告白して付き合い始めるというのがよくあるパターンらしいのです。
「成功した男にくっついていけば自分の人生も安泰」と狙っている感じがするため、あまり印象が良くないです。もちろん、たまよんにそんな下心はないでしょうけれども。相手ではなく自分が成果を出すことを条件にする歩夢の「名人になったら…」とは逆パターンに思えるので、その意味でもたまよんの告白のタイミングは興味深かったです。
④あいはついにタイトル初挑戦
14巻で八一と悲しいお別れをしたあいは、東京で新しい生活を始め、タイトル初挑戦という結果を出しました。以下の3つポイントを語ります。
- あいが山刀伐さんのところに行くのは予想外
- ついにタイトル初挑戦
- 髪をばっさり切ったあい
あいが山刀伐さんのところに行くのは予想外
あいが東京に行ったら、とうぜん両親が経営する「ひな鶴」に住むものだと思っていました。そのため山刀伐のところに住むことになるのは、完全に予想外でした。14巻で山刀伐と研究会をしていたのが、こんな形でつながってくるとは。
山刀伐は自分が強くなるためにあいを住まわせているのですが、あいにとってもA級棋士とたくさん対局できるのは、実力向上のために大きいですね。八一はあいとはあまり対局せずに放任だったので、その違いが際立ちます。でも新居でもたまよんのために家事をしなくてはいけなくて、その点は八一と暮らしていたときとあまり変わっていません。
小学生のあいは、学校に行きつつ将棋をがんばり、さらに他人のぶんの家事までこなしています。かなり大変なはずですから、心配になってしまいます。
15巻ではあいの学校生活の様子は描写されませんでしたが、どんな友達ができるのかとかは気になるところです。別れのあいさつもなくあいが去ってしまって、綾乃ちゃんとシャルちゃんはショックだったと思います。物語がどんどんシリアスな方向に向かっていく中で、ほっと一息のJS研メンバーの出番もまた見たいですね。
ついにタイトル初挑戦
あいはついに、タイトル初挑戦を決めました。女流名跡である釈迦堂里奈への挑戦です。「あいvs釈迦堂」の対決は、10巻の「なにわ王将戦」のときから伏線が貼られていました。そこからだいぶ時間が経って、ついに実現したという感じです。
妹弟子である天衣が9巻でタイトル戦を戦っていることを考えると、今回の挑戦は「ようやくだな」と思います。もともと強かったあいですが、最近の将棋の描写を見ると、もはや手がつけられない強さです。タイトル保持者である万智すら、相手にならないほどですからね。
16巻ではあいが釈迦堂からタイトルを奪うと予想しますが、どうなるでしょうか。あいは精神的に弱いところがあるので、そこを突く何らかの事件が起こりそうな気はします。
髪をばっさり切ったあい
あいは長かった髪をばっさりと切りました。これにも驚きました。
このツイートのイラストからもわかるように、髪型と表情が少し変わるだけで、ずいぶん印象が変わりますね。あいが髪を短くするのは、イラスト担当のしらびさんの発案だったようです。
あいにとっては師匠のもとを離れて東京に移籍するのは本当に大きな転機ですから、髪をばっさり切るのは良い演出だなと私も思います。この髪型はこれまでの銀子に近いのですが、銀子は髪を伸ばしているようなので、その意味でもうまいタイミングです。
私は「りゅうおうのおしごと!」の序盤のイメージが強いので「メインヒロインは銀子ではなくあい」と今でも思っています。あいちゃんにはがんばってほしいです。
⑤歩夢のプロポーズ
15巻のラストは衝撃的でした。歩夢がいきなりプロポーズをしたのです!以下の3つの視点から語ります。
- すっかり変わった「感想戦」の役割
- まさかいきなりプロポーズするとは
- 16巻では釈迦堂里奈がクローズアップされそう
すっかり変わった「感想戦」の役割
「りゅうおうのおしごと!」の最後の「感想戦」のコーナーは、いつも楽しみにしています。当初は本編後の「ほっと一息」のコーナーだったのですが、最近ではすっかり役割が変わってきました。本編の一部に組み込まれつつ、「次回予告」のような形で使われるようになってきたのです。そのため読者としては、最後の最後まで気が抜けなくなりました。
14巻では「万智の手番」が予告されましたが、15巻ではどうなるのかと思いつつ「感想戦」のページに進みました。すると15巻の「感想戦」は、まず表紙から不穏な空気が漂っていたのです。
「感想戦」の表紙といえば、万智と月夜見坂燎のツーショットが恒例です。それが今回は、八一と歩夢のツーショット。しかも歩夢は真剣な表情で、手には小さな箱を持っています。「あの箱は、まさか…!」と思いつつ、いきなりそれはないだろうと読み進めたですが、甘かったです。
まさかいきなりプロポーズするとは
歩夢は釈迦堂里奈にプロポーズをしました。いちおうプロポーズの相手はぼかされて表現されいるのですが、釈迦堂しかありえません。歩夢が師匠である釈迦堂に好意を持っていることは明らかでしたが、前ぶれもなくこんな行動に出るとは。釈迦堂さんもどう対応すればいいのか、困ってしまうでしょうね。しかし「付き合ってください」と言って交際から始めるのも大変そうなので、歩夢としてもどう行動すればいいのか、苦しんだであろうことは想像できます。
とはいえ歩夢の行動にはツッコミどころがあります。そもそもなぜ同窓会をプロポーズの場に選んだのか。八一と万智と月夜見坂がいる目の前ですからね。せめて二人きりのタイミングを選ぶべきでは、と思います。
それに「名人になったら」という条件も、「それって必要なの?」と私は感じました。もし釈迦堂さんがオーケーしたとしても、歩夢が名人になるまで中途半端は状態が続くわけで、それって苦しそうです。しかも才能と実力のある歩夢と言えども、一生かかっても名人になれる保証なんてありません。シンプルに「A級になったので、結婚してください」で良かったのではないでしょうか。
16巻では釈迦堂里奈がクローズアップされそう
16巻では、釈迦堂が大きくクローズアップされそうです。まず歩夢のプロポーズにどう対応するのかが注目です。釈迦堂としては歩夢のことを愛していつつも「もっと若くて良い相手を見つけてほしい」という心情なのではと思います。歩夢にどんな言葉をかけるのでしょうか。
さらにあいを挑戦者に迎えての女流名跡の防衛戦も始まります。防衛戦が始まる大事なタイミングで動揺させるようなことを言うとは、歩夢ももう少し考えてほしいものです。
ともかくタイトル戦の進行とともに、釈迦堂の過去も掘り下げられていくのでしょう。釈迦堂のモデルは、女流将棋界の第一人者の清水市代さんです。清水さんも釈迦堂と同じように「クイーン」の称号をたくさん持っています。
女流棋士を長年にわたって引っ張ってきた釈迦堂には、過去に様々なドラマがあったはずです。それを16巻で読めるのを楽しみにしています。
⑥棋書についての裏話【あの本のモデルとは】
15巻では八一が初めての棋書を書き上げました。ストーリーの中で登場する棋書は、将棋ファンの私としては「これってあの本のことじゃん!」とモデルがわかって、思わず笑ってしまうものばかりです。そこで以下の3つの棋書について、現実の将棋界と結びつけて解説します。
- 九頭竜ノート
- 名人の戦法書
- 巨匠(マエストロ)シリーズ
九頭竜ノート
八一が書いた本のタイトルが「九頭龍ノート」です。このように名字に「ノート」を付けて本にタイトルにするのは、将棋ファンとしては納得できます。このようなタイトルの本の元祖と言えば、島朗さんの「島ノート」です。
さらに「島ノート」から着想を得て、菅井竜也さんも「菅井ノート」を発表しました。こちらは全4冊の本格的なシリーズものです。
こういう本があることを知っていると「九頭龍ノート」というタイトルは「ああ、そうきたか」と感じます。そのタイトルだけで「長年にわたって深めてきた研究を惜しみなく見せつつ、筆者の将棋哲学を伝えたい」という意図が伝わってくるのです。
ちなみに私は大学生のとき、自分の将棋の実戦を記録する棋譜ノートを「梅澤ノート」と名付けていました。まるっきり「島ノート」のマネです。「九頭龍ノート」は、そんな思い出とも結びつきます。15巻のあとがきには、白鳥士郎さんのこんな言葉もありました。
八一と万智が作った本はこの先、物語の中で多くの人々に影響を与えます。
すでに著者である八一の手元を離れた「九頭龍ノート」が、物語をどう動かしていくのか楽しみです。
名人の戦法書
万智の話の中で「名人が書いた戦法書」が登場しました。その本は八一が「修行時代に姉弟子や歩夢と紙がすり切れるくらい読んだ本」であり、「手伝ったライターはあれで家が建った」ほど売れた本だと言います。
こうした説明で、昔からの将棋ファンなら「あの本のことだ」とピンときます。それは羽生善治さんの「羽生の頭脳」シリーズです。
この本が最初に出版されたのは、1992年ごろ。羽生さんが七冠制覇に向かっていく、めちゃくちゃ忙しい時期です。そのため15巻で語られるように編集協力(ゴーストライター)が書いたのだとしても、無理もないかなと思います。
「羽生の頭脳」は私も読んだことがあります。色々な定跡がコンパクトにまとまっていて、中級者が定跡をひと通り学ぶのにぴったりの本です。最初に出版されたときは最新定跡が網羅されていたので、売れまくるのも納得です。
2021年のいまとなっては、さすがに「羽生の頭脳」の内容は古臭くなってしまいました。とはいえ「羽生の頭脳」を夢中で読んだ日々の思い出は、多くの将棋ファンの胸にずっと残っています。
巨匠(マエストロ)シリーズ
生石充九段の巨匠(マエストロ)シリーズも15巻に登場しました。「中飛車マエストロ」や「四間飛車マエストロ」といった本があるらしいです。「捌きのマエストロ」である生石九段のモデルはもちろん、「捌きのアーティスト」である久保利明さんです。
しかしベストセラーになる振り飛車の戦法書シリーズといえば、別の振り飛車党の棋士と棋書が思い浮かびます。それが藤井猛さんによる「指しこなす本」シリーズです。
「四間飛車を指しこなす本」「相振り飛車を指しこなす本」といったシリーズがあり、いずれも振り飛車を学びたい人向けの本としてド定番です。私自身は藤井猛さんのファンということもあって、もう何度も何度も読みました。
生石九段は「りゅうおうのおしごと!」に登場する唯一の振り飛車党のトップ棋士として、リアルな世界の色々な振り飛車党の棋士のエピソードが採用されています。「あれが元ネタだな」とわかると、よりおもしろさが増しますね。
⑦特装版が電子書籍に!銀子が好きな人におすすめ
15巻は「特装版」も発売されました。特装版には特典の小冊子が付いており、その内容は「銀子づくし」です。特装版について、以下の3つのポイントを紹介します。
- はじめて特装版が電子書籍でも販売された
- 3編の書き下ろしショートストーリー
- 書き下ろし短編「リハーサル」
はじめて特装版が電子書籍でも販売された
「りゅうおうのおしごと!」の特装版が販売されるのは15巻が初めてではありません。この15巻の発売に合わせて5巻、10巻、12巻も再販されるなど、これまで何度も小冊子付きのバージョンが売られてきました。
でもそれらの特装版はすべて紙の文庫本の話です。電子書籍で販売されるのは、通常版のみでした。電子書籍で全巻を集めている私は、特装版には手を出さずにいたのです。
それが15巻では初めて、特装版も電子書籍で発売されたのです!うれしかったので、私も初めて特装版を購入しました。今後も特装版が出るときには、電子版でも販売してもらえることを期待します。
特装版の表紙は銀子であり、内容も銀子づくしで「3編の書き下ろしショートストーリー」と書き下ろし短編「リハーサル」の2本立てです。それぞれの内容を詳しく解説していきます。
3編の書き下ろしショートストーリー
まず小冊子の前半の企画は、3人のゲストイラストレーターが描いた銀子のイラストに、白鳥士郎さんがショートストーリーを付けるというものです。本編を書く場合とは違って「イラストが先、文章が後」になっています。収録されている作品は以下の通りです。
ゲストイラスト担当 | 作品タイトル |
---|---|
ふーみ | ゲリラ豪雨と俺のシャツと姉弟子 |
美和野らぐ | 銀色花火 |
夕薙 | 銀子にゃんの恩返し |
ストーリーはとても短くて、文庫本だと3ページ分だと思われます。いつごろの話なのかといった設定はストーリーでは省かれていますが、「あとがき」で白鳥さんがしっかり解説してくれるので「あのころ、こんなことがあったのか」などと想像しながら楽しめます。
私はイラストもストーリーも「銀色花火」がいちばん好きです。本編では花火大会に行くイベントはなかったので、新鮮でした。イラストは打ち上がる花火をバックにお面、りんご飴、金魚を持って振り返る浴衣姿の銀子です。切ない表情がいいですね。
書き下ろし短編「リハーサル」
小冊子の後半は書き下ろし短編の「リハーサル」です。こちらはそれなりのボリュームと読み応えがあります。内容は14巻で師匠の家へ交際の報告にいく前日に、八一と銀子でリハーサルをするというもの。はじまる前の注意書きからおもしろいです。
八一と銀子が二人とも頭の中お花畑状態であることから、想像を超えた激甘展開が波状攻撃のように繰り広げられることを、あらかじめご了承ください。
本編とはあまりにも落差があるため、思いついたはいいものの14巻には入れることができなかったほどの危険物です。
実際に読んでみると、この注意書きも納得の内容でした。14巻では病室でイチャイチャするシーンもあるので、この短編の内容も盛り込むと、やり過ぎになってしまうでしょう。正しい判断だったと思います。
でもいったんボツになった内容を、こうして特装版で読めるというのはうれしいですね。15巻では銀子の出番は少ないので、バランスを取る意味でもぴったりです。銀子が好きな人は、15巻は特装版を買うのがおすすめです。
まとめ
- 万智の手番
- 天衣と八一の同居
- たまよんと山刀伐の活躍
- あいのタイトル挑戦
- 歩夢のプロポーズ
- あの棋書のモデルとは
- 特装版が電子書籍にも
以上のとおり、「りゅうおうのおしごと!」15巻について、7つのトピックを解説しました。
15巻もとてもおもしろかったです。16巻はどんな展開になるのか、楽しみですね。
「りゅうおうのおしごと!」については他の巻の感想も書いているので、こちらからどうぞ。