梅澤浩太郎のブログ。

なぜ将棋には女性のプロ棋士が一人もいないのか?最大の理由とは

 
将棋の女性のプロ棋士が一人もいない理由
この記事を書いている人 - WRITER -
1987年12月生まれ。群馬県在住。会社を辞めたいけれど辞められない人向けに無料メール講座をはじめました。「将棋マッチ」にて、将棋を教える仕事もしています。

将棋の女性のプロ棋士が一人もいない理由

「なぜ将棋では、女性がプロ棋士になれないんですか?」

という質問を最近も受けました。

べつに女性が差別されているわけではないし、男女でそれほど能力差があるとも思えないのに、不思議な感じがしますよね。

 

私は将棋歴15年で、将棋アマ四段です。

「なぜ将棋界に女性のプロ棋士がいないのか」にはずっと興味があって、将棋関係の書籍、雑誌、マンガを読んだり、映画やドラマ、アニメを観たりしつつ考えてきました。

そして私なりの結論を出しました。

その結論とは、「女流棋士になるという選択肢の存在が、女性がプロ棋士になれない最大の理由となっている」です。

 

なぜその結論が言えるのか、わかりやすく解説します。さらに、その他の「女性が将棋のプロ棋士になれない理由」も思いつく限り挙げて、その理屈も説明しています。

本記事を読めば、なぜ将棋には女性のプロ棋士が一人もいないのか、私の意見がわかるとともに、あなた自身で考える材料がそろうでしょう。

基礎知識:将棋の「プロ棋士」と「女流棋士」の違い

「男性のプロ棋士と女流棋士は何が違うの?」
「女流棋士だって、お金をもらっているからプロなんじゃないの?」

こうした疑問を持つ人もいるでしょうから、本題に入る前に、ざっくりと基礎知識を説明をしておきます。

 

女流棋士はお金をもらって将棋を指しているので「プロ」ではあるのですが、プロ棋士とは呼びません。

将棋界では「プロ棋士」と「女流棋士」は、まったく別の制度です。

そしてプロ棋士と女流棋士では、将棋の強さのレベルに大きな違いがあります。

プロ棋士になるのは、女流棋士になるよりもはるかに難しいのです。

【プロになるための代表的な条件】

  • プロ棋士:奨励会で三段リーグを抜けて四段になる(原則として年間4人のみ)
  • 女流棋士:研修会でB2クラスになる

 

研修会のB2クラスは、奨励会の入会時の6級と同じくらいの強さです。

女流棋士になれる程度の実力では、奨励会ではやっとスタートラインに立った程度でしかありません。

 

プロ養成機関である「奨励会」では、会員どうしの対局で良い成績を収めることで、6級→5級→4級→3級→2級→1級→初段→二段→三段と昇級・昇段を重ねられます。

そして最後、三段になると「三段リーグ」に参加

30〜40人程度の三段が半年間かけてリーグ戦を戦い、成績上位2名が三段リーグを抜けて四段になれるのです。

こうした過程を経てプロになった人が、一般に「プロ棋士」あるいは単に「棋士」と呼ばれます。

 

細かい例外は色々あるのですが、肝心なのは「プロ棋士と女流棋士とは違う」ということと、「女性でプロ棋士になった人は歴史上で一人もいない」ということです。

女性が差別を受けているわけではありません。

単純に三段リーグを勝ち抜ける女性がいないから、女性のプロ棋士がいないだけなのです。

結論:女流棋士になる選択肢があるからプロ棋士になれない【3つの理由】

「女流棋士になるという選択肢の存在」が、将棋の女性のプロ棋士が生まれない最大の理由だと、私は考えています。

この意見は、他ではあまり見かけません。

基礎知識が必要なうえ、人に説明して理解してもらうのが大変なので、語る人が少ないのでしょう。

私は今回、わかりやすく解説することに挑戦します。

 

「女流棋士になる選択肢があるからプロ棋士になれない」と考える理由を、以下の3つに整理しました。

  1. 女性は安全地帯が用意されていて必死になれない
  2. 選択肢を常に突きつけられているのは大きな負担
  3. 逃げ場がない中で戦う男性奨励会員に対して負い目を感じる

順に見ていきましょう。

①女性には「逃げ場」が用意されていて必死になれない

プロ棋士を目指している女性の奨励会員にとって、女流棋士は「逃げ場」として機能します。

このことを理解するには、奨励会の年齢制限のことを知っておく必要があります。

 

奨励会員は原則として26歳までにプロ棋士になる必要があり、それを過ぎると強制的に退会となってしまうのです。

年齢制限は将棋界に独特の制度で、とても残酷です。

私は奨励会の経験がなくて説得力がないので、年齢制限で奨励会を退会となった瀬川晶司さんの著書「泣き虫しょったんの奇跡」から引用します。

三段になった者はみな、すでに膨大な時間を将棋だけに捧げている。
いまさら後戻りはできない。
四段になれないことは、それまでの自分がゼロになることを意味する。
挫折などというなまやさしいものではないのだ。
(中略)
すぐ後ろに迫る恐怖から逃れることで精一杯なのだ。
三段リーグを戦う者にとって、二十六歳の誕生日を迎えることは、生きながら死を迎えることにひとしい。
そして、それ以外のすべての誕生日は、死に一歩近づく恐ろしい日でしかないのだ。

 

男性の奨励会員、特に三段リーグを戦う人は、こうした心境で戦っています。

四段になれなければ、プロになることはあきらめなければいけないので、とにかく必死なのです。

 

それに対して女性は、だいぶ状況が違います。

「奨励会にいる女性はいつでも希望すれば女流棋士になれる」という制度があるからです。

言ってみれば女性には「四段になれなければ女流棋士なればいい」という「逃げ場」が用意されているわけです。

 

女流棋士だって、将棋を指してお金をもらうプロ。

いつでもプロになれるのであれば、男性に比べて、三段リーグを抜ける必死さは薄れるでしょう。

そのことが、女性が三段リーグを勝ち抜けない一因になっていると私は思います。

②選択肢を常に突きつけられているのは大きな負担

つねに選択を迫られている状況は、心理的に大きな負担になり、将棋の勝敗にも影響します。

奨励会にいる女性、特に三段リーグを戦う女性には、いつでも2つの選択肢があります。

  1. 苦しい三段リーグを勝ち抜いて四段になることを目指す
  2. 女流棋士なって活躍する

 

女性で奨励会三段になる実力があれば、いつでも女流棋士として大活躍できます。

実際、奨励会で三段リーグを戦った経験のある里見香奈さんと西山朋佳さんは、現在は女流棋士として二人で女流タイトルをほぼ独占しています。

プロ棋士になるには、女流棋士になるという誘惑を振り払い続けなければなりません

 

奨励会に入る女性は「プロ棋士になる」という目標を持っており、意志は固いでしょう。

ただ「女流棋士になる」という選択肢はつねに目の前にあり、決して消えません

他人から悪気もなく「女流棋士になる気はないの?」などと聞かれる機会も多いはずです。

女流棋士になることに常に「ノー」と言い続けることは、大変なことだと想像できます。

 

男性の奨励会員は三段リーグを勝ち抜く以外にプロになる方法はないので、選ぶチャンスがそもそもないため、迷うことがありません。

女性の奨励会員にだけつねに選択肢があることの負の影響は、あまり注目されませんが、実はかなり大きいのではないかと私は考えています。

③逃げ場がない中で戦う男性奨励会員に対して負い目を感じる

女性奨励会員は「いつでも女流棋士になれる権利」を持っていることで、男性奨励会員に対して負い目を感じる可能性があります。

本人があまり自覚していなかったとしても、負い目は心の奥底にあって、奨励会の対局に悪影響を与えているのではないかと私は考えています。

 

男性の奨励会員は、四段になれなれば「生きながら死を迎える」ことになります。

対局は命がけで、いつでも悲壮感がただよっています。

三段リーグはリーグ戦ですから、自分が勝てば相手は負け、プロ棋士から遠ざかることになります。

その意味で三段リーグは「三段どうしで殺し合いをしている」状況です。

四段になれる人数は決まっているので、自分がプロ棋士になれば、そのぶん誰かがプロ棋士になれないのです。

 

そんな奨励会で、女性の奨励会員には女流棋士という逃げ場が用意されています。

これによって「私が勝って他の人がプロ棋士になれるチャンスを奪ってしまっていいのだろうか?」「自分だけ安全な場所にいて、三段リーグで戦う資格があるのだろうか?」と、勝負には余計なことを考えてしまうのではないでしょうか。

こうした「負い目」が女性がプロ棋士になれない要因になっていると、私は考えています。

「負い目」が生じるのも、「女流棋士という選択肢」があるからです。

女性が将棋のプロ棋士になれない他の理由

「女性には女流棋士になるという選択肢があるせいで、プロ棋士になれていない」というが私の意見です。

この他にも、将棋で女性がプロ棋士になれない理由は、多くの人によって色々と語られています。

実際のところ理由はひとつではなく、様々な理由が組み合わさることで「一人も女性のプロ棋士がいない」という現実ができているのでしょう。

よく言われる理由は、以下の通りです。

【女性が将棋のプロ棋士になれない理由】

  • 女性は将棋の競技人口が少ない
  • 女性は生理によって体調が悪い時期が定期的にある
  • 女性は周囲からの期待が大きくてプレッシャーがかかる
  • 女性は脳の構造が将棋に向いていない
  • 女性は体力がない
  • 女性は男性の奨励会員から対抗意識を燃やされる
  • 女性は戦いが好きではない

私が賛同できる順に並べてあります。

これらについて、簡単に紹介していきます。

なぜ将棋に女性のプロ棋士がいないのか、あなた自身のアタマで考える材料としてご活用ください。

女性は将棋の競技人口が少ない

将棋を趣味として楽しむ人は、女性よりも男性の方が圧倒的に多いです。

「女性の方が競技人口が圧倒的に少ないのだから、プロ棋士になる人がいなくても不思議ではない」という考えには、わりと納得できます。

 

将棋をがんばる女性は、周りに同性の友達がほとんどいないせいで孤独を感じてしまい、将棋を続けるのが辛くなるという面もあります。

女性の競技人口が増えて奨励会に入る女性が増えれば、孤独の問題も緩和されるので、プロ棋士誕生につながりやすくなるでしょう。

女性は生理によって体調が悪い時期が定期的にある

女性は生理の期間、体調が悪くなります。

対局日に生理になれば不利になるのはもちろん、普段の将棋の勉強に集中しにくくなるだけでも、悪影響が大きいです。

個人差は大きいですが、生理の影響は無視できないでしょう。

 

私自身は男性なので、この件について実感を込めて語れません。

女流棋士の上田初美さんが記事を書かれていたので、リンクを貼っておきます。

女性は周囲からの期待が大きくてプレッシャーがかかる

三段リーグの女性奨励会員は「史上初の女性プロ棋士誕生なるか」と、世間からの注目を集めます。

まったく面識がない大勢の人から、期待をかけられるのです。

世間からの期待や応援は力になると同時に、プレッシャーにもなるでしょう。

総合的に見て、対局にはマイナスの影響の方が大きいのではないかと、私は考えています。

女性は脳の構造が将棋に向いていない

男女で脳の構造に違いがあることは、脳科学的に見ても事実のようです。

ただ脳の違いは性別の差よりも、個人差が大きいです。

べつに男性なら全員が将棋が強いわけではありませんし、女性なら全員が将棋が弱いわけでもありません。

だから脳の構造の違いは「プロ棋士に女性の割合が少ないことの理由にはなっても、女性のプロ棋士が一人もいないことの理由にはならない」と私は考えています。

女性は体力がない

将棋の対局は見た目以上に体力を使うので、女性が不利な要因にはなっていそうです。

とはいえこれも個人差が大きくて、「女性だから体力がない」と言い切れるものではありません。

べつに筋力が勝敗に直結するわけではないので、「将棋の対局に必要な体力」という点で見れば、女性がどれだけ不利なのかは、よくわからないところです。

女性は男性の奨励会員から対抗意識を燃やされる

男性の奨励会員から「女には負けたくない」と意識されることで、勝ちにくくなる面もあるでしょう。

対局に備えて徹底的に対策を立てられたら、多少は勝率に影響しそうです。

とはいえ将棋は、対抗意識を燃やせば勝てるという単純なものでもありません。

女性がプロ棋士になれない理由として、そこまで重要な要因ではないと私は考えています。

女性は戦いが好きではない

一般的には男性の方が戦いが好きで、将棋も性に合うという人も多そうです。

とは言え、「戦いが好きかどうか」も個人差が大きいです。

戦いが好きで、将棋というゲームが性格に合っている女性もいるでしょう。

プロ棋士に女性の割合が少ないことの理由にはなっても、女性のプロ棋士が一人もいないことの理由にはならないと、私は思います。

まとめ

奨励会の三段リーグを抜けてプロ棋士となった女性は、まだ一人もいません。

その最大の理由は「女性には女流棋士になるという選択肢がある」ことだと私は考えています。

他にも色々な理由が言われていて、どれも間違っているとは思いません。

色々な要因が重なって、女性はプロ棋士になれていないという現実が生まれているのでしょう。

あなたはどう考えるでしょうか?

 

プロ棋士の制度や奨励会の三段リーグについてもっと詳しく知りたい方には、瀬川晶司さんの本がおすすめです。

奨励会を退会となった瀬川晶司さんは、「プロ編入試験」という制度によって三段リーグを勝ち抜くことなくプロ棋士になれた、すごい人です↓

 

 

 

この記事を書いている人 - WRITER -
1987年12月生まれ。群馬県在住。会社を辞めたいけれど辞められない人向けに無料メール講座をはじめました。「将棋マッチ」にて、将棋を教える仕事もしています。

Copyright© コタローノート , 2021 All Rights Reserved.