「りゅうおうのおしごと!」は最新12巻もすごくおもしろかったです。八一をめぐる恋のゆくえにも動きがありました。11巻でほぼ決着がついたかに思えましたが、この12巻では意外な人物が強烈な逆襲をしたのです。
それは夜叉神天衣(やしゃじんあい)でした。ということで、ネタバレありの感想を書いていきます。冒頭のイラストは自分で描いた天ちゃんです。
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「りゅうおうのおしごと!」の恋愛
「りゅうおうのおしごと!」の12巻はこちらです。
これまで主人公の八一は、たくさんの女の子に囲まれながらも、特定の誰かを選ぶことはありませんでした。
それは八一が「にぶい」ために女の子から好意に気づかないから、というのが大きな理由です。しかし11巻では銀子からの好意に八一ははっきり気づき、ふたりは星空の下でキスをして結ばれました。
と、これが前巻までの恋愛の話です。「りゅうおうのおしごと!」において八一をめぐる恋愛の話は、ストーリーの大きな柱でしたが。それはもう、銀子の勝利によって決着がついたかに思えたのです。
夜叉神天衣の奇襲
ところが。八一と銀子の間に、天ちゃんが無理やり入ってきたのです。私は天ちゃんがいちばん好きなキャラクターなので、この展開はうれしかったですね。
完璧な計画をもとにネクタイをプレゼントして、八一とデートをしたうえ、ふいうちでキスをして(しかも2回)、「好きよ。八一」と思いを伝えると。まさかここまで大胆なことをするとは…。
八一への好意を自覚したのもつい最近のことだというのに、天ちゃんは行動に移すのが早いです。キスの前後の描写もよかったですね。
お嬢様である天ちゃんが八一を手玉に取るテクニックがぞんぶんに発揮されていました。食事中の会話で八一から望む言葉を引き出すところは特におみごと。引用します。
「遠慮なんかいらないさ。勝負の世界に遠慮なんて言葉はむしろ不純だ。ひたすら勝利だけを追い求めればいい」
「不意打ちや奇襲を使ってでも?」
「それが天衣の持ち味だろ?俺は好きだけどね。そういう勝負師的なところは」
「ふっ……」
黒髪のシンデレラは吹っ切れたように微笑むと、デザートのスプーンを俺の唇に当てた。
「その言葉、後悔するんじゃないわよ?」
カッコよくキメて車に乗り込んだあと、「バックシートに寝転がって両手で唇をおさえて足をバタバタさせる姿」のかわいさは、ギャップがあってたまりません。12巻のお話はあいかわらず銀子がメインですが、天ちゃんにもこんなにすばらしい一連のシーンを用意してもらえて、天ちゃんファンとしては大満足です。
雛鶴あいは行動できず
積極的な天ちゃんとは対象的に、12巻でもイマイチ元気がなかったのがあいちゃんです。八一をとりまく女の子の中でも、
雛鶴あいは銀子と並んで特別な存在でした。
あいちゃんは1巻から「りゅうおうのおしごと!」のメインヒロインとして、八一をめぐって銀子と激しいバトルを繰り広げてきました。とはいえ、そのバトルも11巻でほぼ決着したのです。
八一が銀子と特別な仲になったことをあいちゃんに伝える場面は、12巻の大きな見どころになるはずでした。そのときあいちゃんは、いったいどんな反応をするのかと。
しかし八一があいちゃんにそのことを伝えることはありませんでした。八一が話を切り出そうとすると、あいちゃんがそれをたくみに避けたのです。
あいちゃんの八一のあしらい方はうまかったのですが、話を聞かないだけでは状況はひっくり返りません。あいちゃん、天ちゃん、シャルちゃんによる「九頭竜一門会議」で天ちゃんからはげまされても、あいちゃんは行動を起こせないままでした。
自分一人で勝手に想いを抱えていたって、伝えなければ何の意味もないのよ?
最初の一歩を踏み出さなきゃ
とその場で言った天ちゃんが、すぐに行動したのとは対照的です。
夜叉神天衣がすぐに動けた理由
「九頭竜一門会議」では、天ちゃんがどうしてここまで八一に対して行動できるのか、その理由が語られました。天ちゃんには「絶望した経験」が2回もあるから、怖がらずに進んでいけたのでした。
1回目は、八一があいちゃんを弟子に取ったときです。親から八一の一番弟子になるんだと言い聞かされて育てられたのに、それが裏切られたと感じて絶望しました。
2回目は、銀子にタイトル戦で完敗したときです。これ以上はムリというほど努力したのに負けて、心を折られました。こうした経験があったからこそ、将棋だけでなく八一をめぐっても銀子と戦う覚悟ができたのです。
一方のあいちゃんには、天ちゃんのような「絶望した経験」がありません。しかも現在でも内弟子として八一と暮らしていてそれなりに満たされているので、そうした日々が変わってしまうのがこわいのでしょう。
この点が、これまで八一と親しくしてこなかった天ちゃんと、あいちゃんの大きな違いと言えます。あいちゃんには、「すでに持っていて失いたくないもの」があるのです。
でも時間がたつにつれて、八一に「好き」と伝えることは、どんどん難しくなってきています。銀子が奨励会を抜けて「封じ手」が開けられてしまった、いまとなってはなおさらです。
どのタイミングであいちゃんがふっきれて行動を起こすのか、そのきっかけは何になるのか、これからの見どころになりそうです。
空銀子と雛鶴あいの会話
雨が降りしきる小学校で銀子とあいちゃんが会話をしたのもいいシーンでした。この二人は顔を合わせればケンカしてばかりで、まともな会話をしたことは数えるほどしかないですから。
今回もあいちゃんは熱くなっていましたが、銀子が冷静だったのでケンカにはなりませんでした。銀子は八一と特別な関係になったことで得意になっているわけでもなく、ただ八一のことをあいちゃんに頼みたくて、話しかけたという様子だったのです。
あいちゃんのことを心の底では認めていて頼りにもしているということが伝わってくる会話でした。やはり銀子はあいちゃんよりオトナ(年齢を考えれば当然ですが)だというのが現れていて、銀子ちゃんの好感度がアップしました。
銀子の奨励会の最終局ではあいちゃんの詰将棋が力になって勝つことができたというのも、いいストーリーでした。ここ数巻ではあいちゃんの将棋がきちんと描写されることがなくて、恋愛だけでなく将棋でもあいちゃんの出番が少なくなっていました。
12巻では八一や銀子の将棋を通して、ひさしぶりに間接的にでもあいちゃんの見せ場があったのはうれしかったです。なにしろメインヒロインですからね。
奨励会編も終わったことですし、次巻からは女流棋士となっているあいちゃんや天ちゃんの将棋にもスポットが当たるのではと思います。将棋と恋愛、その両面で新しい展開が楽しみです。
まとめ
「りゅうおうのおしごと!」12巻では八一をめぐる恋のバトルにも新しい動きがありました。夜叉神天衣が告白をしてキスをするという強烈な逆襲をしたのです。その前後の描写も含めて天ちゃんファンにはたまらないすばらしいシーンでした。
一方でそんな積極的な天ちゃんとは対照的に、あいちゃんは動けないままでした。なにかをきっかけに
あいちゃんも行動を起こせるのか、次巻に注目です。
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