将棋の持ち時間の方式、ストップウォッチとチェスクロックの違い4つ

将棋の持ち時間には「ストップウォッチ方式」と「チェスクロック方式」の2種類があります。

初めて見た人には違いがわかりにくいので、違いを4つにまとめて紹介します。

  1. 持ち時間の減り方
  2. 対局にかかる時間と終局時刻
  3. 終盤に時間を取っておきやすいか
  4. 消費時間のカウントの考え方

これらを理解しておくと、将棋観戦がより深く楽しめるでしょう。

目次

昔ながらのストップウォッチ方式

違いの解説に入る前に、2種類の方式を簡単に紹介します。

まず「ストップウォッチ方式」。昔からほとんどの将棋の対局で採用されている消費間の測り方で、今でも将棋界の主流です。

その最大の特徴は「1分未満の消費時間は切り捨てになる」ということ。

たとえば3分ちょうどで指したとしても、3分59秒で指したとしても、消費時間は同じ「3分」となります。

59秒以内に指した場合には、持ち時間はまったく減りません

たとえば持ち時間が残り「5分」のままで、何十手も指し進められるのです。

最近増えてきたチェスクロック方式

一方の「チェスクロック方式」。テレビ棋戦など早指しの対局で採用されてきた消費時間の測り方です。最近では、順位戦など持ち時間の長い対局でも採用されるようになってきました。

チェスクロック方式の特徴は、「秒単位で持ち時間が消費される」ということ。たとえば3分ちょうどで指せば消費時間は「3分」で、3分59秒で指せば消費時間は「3分59秒」です。

チェスクロック方式のときのように持ち時間がまったく減らないということはなく、どんどん時間がなくなっていきます。

持ち時間をムダに消費するのを避けるため対局者がさっさと指すので、指し手がどんどん進んで対局にスピード感が出ます。その方が見ている分には面白いので、チェスクロック方式は観戦者を意識した時間方式と言えます。

チェスクロック方式が採用されている棋戦はNHK杯、銀河戦、JT杯、そして叡王戦など。どれも観戦者がいることを意識した棋戦です。

ストップウォッチ方式とチェスクロック方式の4つの違い

ストップウォッチ方式とチェスクロック方式の4つの違い

「ストップウォッチ方式」と「チェスクロック方式」の4つの違いを順番に紹介します。

違い①持ち時間の減り方

まず最初の違いは「持ち時間の減り方」。「チェスクロック方式」の方がどんどん時間が減っていきます

秒単位で消費時間が測られるチェスクロック方式では、分単位で測るストップウォッチ方式よりも持ち時間が多く減ることになるのです。

たとえば50秒で指した場合、チェスクロック方式では「50秒」持ち時間が減りますが、ストップウォッチ方式なら「0分」で持ち時間がまったく減りません。

対局の雰囲気もストップウォッチ方式とチェスクロック方式で違ってきます。たとえば序盤の定跡どおりの展開だと、相手が指した後に次に指す手が決まっている場合はよくあります。

そのようなときでも、相手が指した後一呼吸置いてから着手をするというのがプロの将棋らしい優雅なテンポです。ストップウォッチ方式であれば一呼吸置いたとしても1分未満に指せば持ち時間はまったく減らないので、余裕があるわけです。

一方でストップウォッチ方式では、持ち時間は秒単位で減っていきます。相手が着手したあと、相手の手が引っ込んでひと息つく間にも、自分の持ち時間が減っていくのです。

だから棋士によっては相手の手が引っ込まないうちに、すぐに次の手をすぐ指します。対局時の雰囲気がせわしない感じになり、序盤からスピード感と緊迫感を増すのです。

違い②対局にかかる時間と終局時刻

2つ目の違いは「対局にかかる時間と終局時刻」です。

消費時間の方式が変わると、対局が終わるまでにかかる時間も変わります。チェスクロック方式の方がストップウォッチ方式よりも時間がすぐになくなるので、対局にかかる時間が短くなり、終局時刻が早くなるのです。

順位戦では、終局時刻を早めるためにチェスクロック方式を採用しました。B級2組、C級1組、C級2組の対局限定ですが、2016年度から従来のストップウォッチ方式をチェスクロック方式に変更したのです。

その主な目的は、記録係の負担を減らすことです。順位戦は持ち時間が6時間で、タイトル戦を除けば持ち時間が最も長い棋戦です。

そのぶん終局時刻は遅くなりがちで、朝10時から対局を始めても決着が日付が変わった後になることが珍しくありません。さらにその後に感想戦をやって、それから片付けとなると記録係への負担がとても重いのです。

そこで対策として、チェスクロック方式を導入。対局者の持ち時間が秒刻みでどんどん減ることで、終局時間は平均で1時間程度早まるようになりました。これによって記録係が終電に間に合うことが増えるなど、狙いの効果は出ているようです。

チェスクロック方式は「観戦者」を意識した方式だと書きましたが、それだけではありません。「記録係」を気遣う方式としても活用されているんですね。

違い③終盤に時間を取っておきやすいか

将棋のストップウォッチ方式とチェスクロック方式

違いの3つ目は「終盤に時間をとっておきやすか」ということ。

チェスクロック方式にすることで記録係の負担軽減など良いことがあるのであれば、もっと多くの対局でチェスクロック方式に変更すればいいのにと思えてきます。ただ対局中のミスを減らしたい棋士としては、従来どおりのストップウォッチ方式の方がありがたいようです。

特に違いが出てくるのが終盤です。終盤の勝負どころで3分ぐらい考えられれば、その効果はかなり大きいので、棋士は終盤まで時間を取っておこうとします。このときストップウォッチ方式の方が、終盤まで時間を残しておきやすいのです。

たとえば持ち時間が「残り10分」だとします。ストップウォッチ方式の対局でこの10分を残しておきたい場合には、常に59秒以内に指すようにします。そうすれば持ち時間は「残り10分」から減らず、時間をかけて考えたい局面になるまでその時間をとっておけるのです。

時間をとっておきやすいように、棋士は記録係に秒の読み方を指示しています。よくある指示は、考慮時間が「50秒」のときと「55秒」のときの秒を読むこと。棋士は「55秒」を読まれたらすぐに指すようにして、持ち時間を減らさないようにするわけです。

一方でチェスクロック方式の場合には、終盤で持ち時間を取っておくことが難しくなります。

持ち時間が秒単位で減っていくため、なるべくすぐに指すように気をつけていても、どんどん時間がなくなってしまいます。だから「勝負どころで考えるために何分かとっておく」ということが実現しにくいのです。

ストップウォッチ方式で時間を取っておくことが習慣となっている棋士の中には、チェスクロック方式になるとやりにくさを感じる人も多いようです。

このように、ストップウォッチ方式からチェスクロック方式への変更した場合、棋士に与える影響は観戦者が考える以上に大きいです。それだけに、消費時間の方式の変更は気軽にできるものではないのですね。

実際、チェスクロック方式を取り入れた順位戦でも、A級とB級1組の対局ではストップウォッチ方式のままです。ここでもA級とB級1組の特別さが際立っています。順位戦のクラスによる違いの話は、こちらの記事に詳しく書きました。

違い④消費時間のカウントの考え方

ストップウォッチ方式とチェスクロック方式の違いの4つ目は「消費時間のカウント考え方」です。

将棋の棋譜中継を見ると、投了した局面に両者の消費時間が「○○時間○○分」と記載されています。「1分以内に指さなければ時間切れ負け」という状態で終局したとき、方式によって記載される時間が違いが出るのです。

たとえば持ち時間が6時間の対局の場合を考えます。このときストップウォッチ方式であれば、記載される消費時間は「5時間59分」となります。「持ち時間を使い切ったら負け」という考え方なので、消費時間が「6時間」にはなりません。

ストップウォッチ方式では「持ち時間を使い切ったら、その後の秒読みは○○秒とする」などと決める必要はなく、「持ち時間○時間」という、とてもシンプルなルールにできます。なぜなら「分単位で時間を測る」というストップウォッチ方式には、はじめから秒読みという仕組みが組み込まれているからです。

このことを初めて理解したとき、私は「なんてうまくできているんだろう」と感動したものです。

一方のチェスクロック方式。「1分以内に指さなければ時間切れ負け」という状況で終局になった場合、消費時間は「6時間」となります。つまり「持ち時間を使い切ってから秒読みが始まる」という考え方です。

チェスクロック方式では最後の1分を使い切っても時間切れ負けにはならなくて、そこからが秒読みになります。秒読みの時間は「1分」とは限らず、棋戦によって定められています。

といっても色々な種類があるわけではなくて、自分の知る限り「30秒」か「60秒」のどちらかです。秒読みの時間を自由に設定できるというのは、チェスクロック方式だからこその利点と言えそうですね。

まとめ

ストップウォッチ方式とチェスクロック方式の4つの違いを紹介しました。

  1. 持ち時間の減り方
  2. 対局にかかる時間と終局時刻
  3. 終盤に時間を取っておきやすいか
  4. 消費時間のカウントの考え方

ストップウォッチ方式では終盤での持ち時間の取っておき方が見どころで、チェスクロック方式では対局のスピード感が増すのが魅力です。

両者の違いを理解したうえで観戦をすると、将棋の対局の駆け引きがより深く理解できて、おもしろいですよ。

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