「りゅうおうのおしごと!」の11巻が発売になりました。10巻のラストが衝撃的でしたが、その続きの物語。
本巻もとても面白かったので、その感想を書きます。ネタバレがありますので、それでもかまわない人のみお読みください。
ちなみに冒頭のイラストは作中のイラストをお手本にして自分で描きました。「りゅうおうのおしごと!」の他の記事は、こちらからお読みください。
「りゅうおうのおしごと!」の11巻
「りゅうおうのおしごと!」は将棋を題材にしたライトノベル作品。2019年8月9日に第11巻が発売されました。
作者は白鳥士郎さん。白鳥さんは叡王戦で観戦記やインタビュー記事を書くなど幅広く活躍されています。「りゅうおうのおしごと!」の読者以外の将棋ファンにも、白鳥さんは広く知られる存在です。
「りゅうおうのおしごと!」のストーリーのはじまりを紹介します。16歳で「竜王」のタイトルを獲得した主人公九頭竜八一(くずりゅうやいち)のもとにある日突然、小学3年生の雛鶴あい(ひなつるあい)が押しかけて弟子入りしてくる・・・。八一とあいを中心にして、登場人物たちの人間ドラマが展開します。
「りゅうおうのおしごと!」の第1巻が出版されたのが2016年1月ですから、もう3年以上前。第11巻まで続いていることからも、この作品の人気の高さがうかがえます。
2018年1月から3月にかけてはTVアニメも放送されました。私自身もアニメがきっかけで興味を持って、ライトノベルも読み始めたのです。アニメが終わってからもライトノベルの最新刊を読み続けており、今回の11巻も楽しみにしていました。
そして11巻を読んでみると、これまでとは違うところが色々あることに気づきました。
空銀子の話題に集中、「姉弟子」の理由も
11巻の大きな特徴は、ヒロインの一人である空銀子(そらぎんこ)の話題のみに集中していることです。「りゅうおうのおしごと!」には、数多くのかわいい女の子が登場します。
これまでもその中の誰かに焦点を当てることはありましたが、この11巻ほど他のヒロインの影が薄かったことはありません。特にメインヒロインである雛鶴あいがほとんど登場しなかったのは驚きです。
その結果、11巻は最初から最後まで銀子を中心に進むことになりました。読者にとっては、意識を銀子のことだけに集中できるようになった点は、よかったと思います。
11巻では、ここまで10巻も続いていながら今まで深く語られてこなかった銀子とや八一の過去が明らかになりました。特に注目は八一が銀子のことを「姉弟子」と呼ぶことになったきっかけの話。
私は長年リアルの将棋界を見てきていますが、「姉弟子」と人に呼びかけるのは見たことはありません。「姉弟子って呼ぶのは変だろ!」というのはこの作品のツッコミどころだったわけです。今回、その理由が用意されて、スッキリしました。
もともと八一は「銀子ちゃん」と名前で呼んでいたのです。それが銀子がタイトルを獲った際に周囲の大人からその呼び方を注意されたことで、八一は他の呼び方を考えることに。そのタイミングで供御飯万智(くぐいまち)さんの少し意地悪なアドバイスがあって、「姉弟子」と呼ぶようになったんですね。
銀子の方が八一より弟子入りが2週間ほど早いので、たしかに「姉弟子」であることは間違いありません。本巻の後半では
八一がはがんばって昔のように「銀子ちゃん」と呼ぼうとしていましたが、これが定着していくのでしょうか。次巻以降での呼び方がどうなるのか、気になるところです。
もうひとつ、銀子の雪の結晶の形をした髪飾り。これが八一がプレゼントしたものだということも12巻で明かされました。この髪飾りについてはもともと白鳥さんは考えておらず、イラスト担当のしらびさんが銀子を描くにあたって出したアイデアらしいです。
今回、そこに白鳥さんが素敵なエピソードを付け加えてくださいました。銀子が着用しているカチューシャは清滝桂香さんからもらったものです。それだけでなく髪飾りも意味を持ったことで銀子のキャラクターに深みが増して、私も銀子を見る目が今までとは変わりました。
回想シーンが多い
11巻はいつもにも増して回想シーンが多かったです。そして回想シーンはひとつにまとまっておらず、ところどころに挿入される形でした。物語の流れとしては現在の話があって回想シーン、話が少し進んでまた回想、といった感じです。
本巻ではひたすら銀子と八一の行動を追ってストーリーが進んでいき、他の場所にいる他の登場人物の描写は入ってきません。その代わりに回想をたくさん入れて、場面を切り替えていく形になっています。
回想では銀子や八一が将棋を覚えた頃から現在にいたるまでの長い期間が、ひととおり語られます。いままで各巻でバラバラに描写されていた話が時系列順にまとまっているので、その意味でも貴重です。
ここまでの10巻を読んできた人にとってはいい復習になりますし、全部は読んでいない人も11巻を読めばある程度追いつけるのです。これまでの総集編のように感じました。
イラストが素晴らしい
本巻のクライマックスは何と言っても星空の下での銀子と八一のキスシーン。作中ではその行為は「封じ手」と表現されています。このシーンについて、イラストを担当する「しらび」さんがこんなツイートをしていました。
「封じ手」のシーンと構図を似せているページというのは、銀子と八一が出会った場面のことでしょう。見開きページの左右に文章を挟んで銀子と八一が向き合うように配置されており、とても印象的です。
さらに「封じ手」の場面でのイラストは一見すると左右でひとつながりの絵のように見えます。ですが実は右側の絵がキスする「前」、左側の絵がキスした「後」と時間の経過まで表現されているのです!
すばらしい場面に用意された最高のイラストです。さらにイラストに関しては、最後の方に見開きページを丸ごと使ったド迫力のイラストまでも用意されていました。巻頭カラーページ以外で見開きのイラストが使われるのは、「りゅうおうのおしごと!」ではおそらく初めてのこと。白鳥さんとしらびさんの新しいことに挑戦する気持ちを感じました。
「君の知らない物語」の感動
最後に、多くの人にとってどうでもいいだろうけれど、私が気に入ったネタについて。「りゅうおうのおしごと!」には、数多くのネタやパロディが盛り込まれています。アニメ、マンガ、映画など元ネタは様々。これらは元ネタを知っていれば気付いてクスリと笑うことができるのですが、知らなければスルーしてしまいます。
私自身、気が付いたものがたくさんある一方で、よくわからないまま流してしまっているものも多数あると思われます。私が11巻で気付いた中で一番好きなのが「君の知らない物語」のネタです。
「君の知らない物語」は2009年8月12日に発売された楽曲。「supercell」という音楽グループのファーストシングルで、「化物語」というアニメのエンディングテーマとしても使われています。
私は「supercell」も「君の知らない物語」も大好きです。私の音楽プレーヤーの再生回数の記録を見ると、「君の知らない物語」は今までに1000回以上聴いています。私にとって、「星空」といえばこの曲です。そのため八一が銀子と満天の星空を見上げるシーンでは、自然と「君の知らない物語」のことが頭に浮かんでいました。
そんなときに八一のセリフの中に「星を見に行こう!」というフレーズを発見。これはもしやと思いつつ読み続けていくと、「あれがデネブで、あっちが多分アルタイル、ベガ……」というフレーズまでも。これらはどちらも、「君の知らない物語」の中の特徴的な歌詞です。
そもそも、八一が星に詳しいなんていう設定は今までまったくなかったのに、その八一がいきなり星の説明を始めるのは違和感があります。この違和感は白鳥さんが読者に「君の知らない物語」のネタに気付いてもらうための仕掛けなのでしょう。
デネブ、アルタイル、ベガと八一が自然に発言するように事前に整えすぎると、そのセリフに違和感がなくなって印象に残りませんからね。
「星を見に行こう!」と「あれがデネブ〜〜」のふたつのフレーズが盛り込まれるだけで、このネタがわかる人の頭の中には「君の知らない物語」のメロディが流れ始めます。これはすごい仕掛けです。曲名すら持ち出すことなく、このロマンチックな場面にBGMを流すことができるのですから。
しかも「君の知らない物語」の歌詞は「好きな人に『好き』と伝えるかどうか」が主題なので、今回の「封じ手」のシーンにぴったりです。ライトノベルってものすごい表現ができるんだな!と私は感動しました。
まとめ
「りゅうおうのおしごと!」の第11巻は、メインヒロインの一人である空銀子の話題を中心にした内容です。多くの回想シーンが盛り込まれており、銀子がなぜ「姉弟子」と呼ばれるようになったのかなど、今まで明かされなかったことが語られました。
作中のイラストはいつもにも増して素晴らしかったです。また楽曲「君の知らない物語」のネタとそれを盛り込む効果を発見して、私は感動しました。
11巻の感想その2として、八一が銀子を選んだことについて詳しく書いたので、あわせてお読みください。
「りゅうおうのおしごと!」の他の記事は、こちらからどうぞ。