「紅葉の棋節」全2巻を読みました。
感想としては、
色々な要素を盛り込み過ぎて
一番大事なテーマが
ぼやけてしまっているのが残念。
テーマとは
「死んでしまった人への思いを
どう乗り越えるか」
ということです。
感想にはネタバレが含まれているので
注意してください。
ちなみに冒頭のイラストは
私が自分で描きました。
「紅葉の棋節」の紹介
「紅葉の棋節(もみじのきせつ)」は
将棋を題材にしたマンガ作品。
週刊少年ジャンプで
2018年5月〜2018年9月にかけて
連載されていました。
すでに完結しており、
単行本は全2巻出ています↓
ストーリーは、
主人公である中学1年生の
蔵道紅葉(くらみちもみじ)が
奨励会に入り、
プロ棋士、さらには「竜王」を目指す、
というもの。
作者は里庄真芳さん、
監修は棋士の三枚堂達也さんです。
この作品のテーマ
私は読み終えてから
「この作品のテーマ、
一番伝えたかったことは何なのか」
ということを考えました。
私が考えたこの作品のテーマは、
「死んでしまった人への思いを
どう乗り越えるか」
です。
伝説的な棋士である
蔵道桜(くらみちさくら)は、
主人公の紅葉の兄であり、
市原銀杏(いちはらいちょう)の師匠。
彼は竜王の獲得まで
あと一歩まで迫りながら、
持病があるのに無理をしたことにより
若くして死んでしまいました。
その死は紅葉や銀杏をはじめとする
桜に関わった人々の心に、
大きな傷を残しました。
誰もが
死んでしまった桜に対する
やり場のない熱い思いを抱えながら
生きていくことになったのです。
そのことをよく表しているのが、
桜の師匠が紅葉に対して
心の中で言ったこちらの言葉。
私と同じで…彼が…
焼きついてしまっているんだ積もりに積もった
そのどうしようもない気持ちをーー盤上で燃やすしかないんだな
また、
「桜さんの代わりになりたい」
と口に出したライバルに対して紅葉が語った
こちらのセリフも重要です。
……兄貴は死んだ
もういない
代わりなんて尚更いないでも俺達はいる
代わりでも何でもない
俺達の将棋の中に
兄貴の将棋は生きている
これら2つの場面には
物語全体のテーマが現れていて、
とても良い場面だと感じました。
しかし惜しいのは、
上記の2つのセリフは、
どちらも物語が盛り上がっていない場面で
ポロッと出てくる言葉だということ。
物語全体で見たときに、
「死者への思いをどう乗り越えるか」
というテーマは
ボケてしまっているのです。
「紅葉の棋節」は
マンガとして面白くしようとして
他に色々な要素を盛り込んだため、
詰め込み過ぎで
どれも消化不良になってしまった印象。
「死者への思いをどう乗り越えるか」
というテーマに集中して
物語を構成するべきだったと感じます。
私自身、
全2巻を真剣に2回通して読んだからこそ、
このテーマが重要だとわかったのです。
連載されているときに
このマンガを1回だけ読んでいったとしても、
作品の持つテーマに気付いて
面白さを感じるのは
難しかったことでしょう。
テーマ以外の要素
上で色々な要素を盛り込みすぎた
と書きましたが、
具体的にどんなものがあるのか。
私が気になったものを
3つ挙げてみます。
要素①女性プロ棋士の市原銀杏
本作のヒロインである市原銀杏。
将棋マンガは男ばかりになりがちで、
どう女の子を登場させるかというのは
難しいところ。
「紅葉の棋節」では
銀杏の存在によってそれを解決しています。
ただ彼女には色々な属性が
盛り込まれ過ぎている感じで、
主なものだけも5つあります。
- 桜の弟子
- 紅葉の師匠
- 史上初女性プロ棋士
- 女子高生
- 六段でタイトル挑戦
この中で最も大事なのは①と②で、
これらがテーマと大きく関わってきます。
しかし、読者の注意は
③や④や⑤は現実的なのか
というところに向いてしまい、
テーマがぼやけがちな要因に
なっているのです。
要素②数多いライバル達
少年マンガにはライバルがつきもの。
「紅葉の棋節」にも
ライバルが登場するのですが、
その数が多過ぎました。
私の見たところ、
本作では以下の4人が
主人公のライバルです。
- 綿貫櫟(わたぬきくぬぎ)
- 染井吉野(そめいよしの)
- 雪柳渚(ゆきやなぎなぎさ)
- 百日紅勝(さるすべりまさる)
ライバルが登場するたびに
それぞれが抱える過去だったり
思いだったりが掘り下げされるのですが、
ライバルの数が多いので
それぞれが中途半端に。
全2巻しかないために
それぞれの見せ場が1回ずつしかなく、
キャラクターの内面が深まりません。
これらのライバルの中でも
染井吉野は死んでしまった桜との関係も近く、
物語のテーマと密接な存在。
彼と主人公の話を
もっと描いてほしいところで、
私はそれを期待しながら
読み進めていました。
しかし、
第2巻が終わるころになって
4人目のライバルである
百日紅勝が登場。
掘り下げ不足のままになったうえに
ストーリーは収束するどころか
発散することとなり、
残念なところでした。
要素③「竜王」とその一門
「紅葉の棋節」では
「竜王」が将棋界の最高位
という世界観なのが面白いです。
今までの将棋マンガでは、
将棋界のトップといえば「名人」。
他の将棋マンガでは
「名人」以外は架空のタイトル名を使う
という場合が多いのですが、
本作では「竜王」以外が
架空の名称となっており、
「名人」は登場すらしません。
たしかにずいぶん昔から
将棋界の最高位は「竜王」
だと決められているのですが、
主人公が「名人ではなく竜王を目指す」
というのは斬新。
ただ、本作は主人公の紅葉が
奨励会に入る先後の話なので、
語っている夢が遠すぎてピンとこない
というイマイチさがありました。
現在の竜王の一門が
将棋界のほぼ上位を占めている
とうのも面白い設定です。
現実の将棋界では
特定の棋士とその弟子ばかりが
タイトルを独占するということは
ないですからね。
「週刊少年ジャンプ」での連載打ち切り
「紅葉の棋節」の連載が始まった
2018年5月というのは、
将棋界のみならず世間に広がった
藤井聡太ブームの真っ最中。
この時期にはブームに乗って、
数多くの将棋マンガの連載が始まりましたが、
「紅葉の棋節」もその中のひとつでした。
しかし、
本作は連載が途中で
打ち切られてしまうこととなりました。
週刊少年ジャンプは
読者からのアンケート至上主義で
知られており、
人気のない作品は
ようしゃなく連載が打ち切られるのです。
将棋マンガでは
「ものの歩」も週刊少年ジャンプで
連載打ち切りとなっています。
こちらは単行本を5巻まで出したので
「紅葉の棋節」の比べると健闘していますが、
連載を続けることの難しさが感じられます。
週刊少年ジャンプには
「ジャンプGIGA」
という増刊号があります。
実は「紅葉の棋節」は
そちらに連載されていた
「モミジの棋節」という作品が
元になっています。
「ジャンプGIGA」から
成功を見込まれて出世して、
「週刊少年ジャンプ」
での連載となったわけですね。
「紅葉の棋節」の
単行本中のオマケページの
メッセージを読むと、
作者は週刊少年ジャンプでの連載作品を
「モミジの棋節」の続編として描いて、
主人公も変更するつもりだったようです。
それが編集部の意向があり、
「モミジの棋節」の続編ではなく
ほぼ同じ第1話から物語を始めることに。
しかし第2話と第3話には
大幅な直しが出て、
日程的にかなりキツかったとのこと。
そんなふうに連載開始当初から
バタバタしていたことが、
作品の質にも影響してしまった
と感じられます。
まとめ
「紅葉の棋節」は
「死んでしまった人への思いを
どう乗り越えるか」
をテーマにした作品。
ただ、話の中に色々な要素を
盛り込んだことにより、
そのテーマがぼやけてしまったのが
残念なところ。
この作品は
連載が打ち切られたということで、
週刊少年ジャンプで人気を集めて
連載を続けるのは大変なことだと
あらためて感じました。
将棋マンガの感想は
他にも書いているので、
よかったら合わせてお読みください。
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