将棋の上達法のひとつとして、「棋譜並べ」があります。でも、対局や詰将棋と比べると、わかりにくい上達法に感じられるかもしれません。
- 棋譜並べってなんだろう?
- やるとどんな良いことがあるんだろう?
- 将棋を上達するにはどんな棋譜が有効なんだろう?
- 棋譜はどうやって手に入れるんだろう?
- じっくり並べるのとササッと並べるのは、どちらがいいんだろう?
この記事では、将棋アマ四段の私がこうした疑問に答えます。結論を先に書いてしまうと、「楽しくやるのがいちばん大事」です。
棋譜並べ以外も含めて、将棋の上達法は私の著書にまとめています。よかったら読んでみてください。
棋譜並べとは
まずは「棋譜」の説明から。棋譜というのは、「▲7六歩、△8四歩、▲6八銀、・・・」のように、符号によって対局の指し手を記録したものです。
将棋盤と駒を用意して、本などに載っている棋譜の通りに駒を動かしていくことで、一局の将棋を再現することができます。これが棋譜並べです。棋譜並べをすることで、プロ棋士の将棋をじっくりと鑑賞することができます。
パソコンやスマホでポチポチやるだけでも棋譜を再生することはできますが、それだとあまり「棋譜並べ」という感じがしません。手軽にできるのはいいのですが、記憶に残りにくいです。
将棋の上達のためには、やはり盤と駒を使うことをオススメしたいところです。
棋譜並べの効果
棋譜並べはただの楽しみとしてやってもいいのですが、将棋を上達するための手段としても効果的です。
プロ棋士の将棋を並べることで、レベルの高い将棋に触れることができます。自分では思いつかいないような指し手を盤上に再現していくうちに、自分でもそういう手が指せるようになってくるもの。これが棋譜並べの効果です。
将棋には序盤、中盤、終盤とありますが、棋譜並べならそのすべてを鍛えられるというのが大きな特徴です。たとえば、定跡書なら序盤、詰将棋なら終盤と効果のあるところに偏りがあるのですが、棋譜並べはバランスがいいです。
序盤、中盤、終盤のそれぞれの手筋や考え方を学ぶことができます。
棋譜並べをするときは、他の上達法と組み合わせるとさらに効果が上がります。棋譜並べを予習や復習の場として使うのです。
たとえば棋譜並べをしながら「これはあの定跡書に書いてあった戦法だな」とわかったり。あるいは「この詰ますときの手筋は詰将棋の問題で見たことがあるな」と気づいたり。
そうして、本で学んだことを実戦の将棋の中で見ることができるのも、棋譜並べの良いところです。逆に棋譜並べで初めて知った手筋や考え方を、あとで本を読んで深く勉強することもできます。
じっくりやるかササッとやるかは好きな方で
棋譜並べをやるとき、多くの人が悩むことがあります。それは、「どれぐらいのスピードでやるのがいいのか」という問題です。
棋譜並べは動画を見て将棋を観戦するのとは違って、自分の好きなペースで将棋を進めることができます。それはすごく大きなメリットなのですが、自由なぶんだけ迷うわけです。
棋譜にはたいていの場合、解説が付いています。一手ごとに「この手はこういうねらいがあります」とか「これは○○という手筋です」などと説明してくれるわけです。
これをしっかり読んで理解しようとすると時間がかかります。また、対局者になったつもりで一手ごとに自分なりに考えるのにも時間が必要です。
じっくり解説を読んで考えながら並べるのがいいのか、ささっと並べて数をこなした方がいいのか。これは私としては、「どちらでも好きな方でよい」というのが結論です。というのも、じっくり並べるのもササッと並べるのも、どちらにも良さがあるからです。
じっくり並べれば、一手一手の意味を深く理解することができます。出てきた手筋や考え方が身につくので、自分の実戦でも使えるようになるでしょう。しっかり考えながら並べることで、読みを深める力をつけることもできます。
自分で対局をしているかのような効果が得られるのは、じっくり並べたときの良さです。
一方で、ササッと並べるのは、序盤→中盤→終盤という一局の流れがつかみやすいのが良いところです。というのも、じっくり並べていると終盤戦になるころには、どんな駒組みの将棋だったのか忘れてしまうんですよね。深く考えずに並べることで、その一局がどんな将棋だったのかというのがよくわかります。
あとは単純に、ササッとやるとたくさんの棋譜を並べられるというのも良いところです。たくさん並べることで「この将棋はすごい!」「これは勉強になる!」と感動するような将棋に出会うチャンスも多くなります。
このように、「じっくり」でも「ササッと」でも違った良さがあります。だから、どちらの並べ方も試しにやってみて、自分に合ったやり方、楽しんでやれるやり方で棋譜並べをするといいかと思います。
棋譜の選び方
棋譜並べをするなら、「どんな将棋を並べるか」というのも大事なポイント。これも私の結論としては、「自分の好きな棋譜を並べればいい」です。
好きでやるからこそ楽しくて集中できるし、そのぶん勉強になるからです。とはいえ、「将棋が強くなる」という目的でやるなら、それに適した棋譜の選び方があります。棋譜の選び方は大きく分けて3つあるので、上達に役立つ順番に紹介します。
また、それぞれの場合にどうやって棋譜を手に入れるかも書きました。
①得意戦法の戦法の棋譜
まず、将棋の上達にいちばん効果的なのは、「自分の得意戦法の棋譜」を並べることです。つまり、四間飛車が得意な人なら四間飛車の将棋の棋譜を、角換わりが得意な人なら角換わりの棋譜を並べるわけです。
戦法ごとに実現しやすい形や手筋というのは決まっています。自分の得意戦法の棋譜なら「こういう形に自分もよくなって困るんだよな」「そうか、このときにはこうやればいいのか!」という気づきが多く得られるはず。
自分の実戦で見たことがあるような形なら、理解度が一気に深まりますし、棋譜並べで学んだことを対局で活かしやすいです。だから、将棋の上達にすごく役立つのです。
将棋が強くなるために棋譜並べをするなら、得意戦法の将棋を選んで棋譜並べをするのがオススメです。
では、自分の得意戦法の棋譜はどのように手に入れればいいのでしょうか。
まずお手軽なのは、定跡書に付いている棋譜を利用することです。定跡書では、それを書いた棋士の実戦が紹介されている場合が多いです。しっかりとした解説が付いているので、棋譜並べに慣れていない人でも取り組みやすいはず。定跡書の内容を復習することにもなるため効果的です。
また、たくさんの棋譜を並べたい場合は、戦法別の棋譜集を買うのも手です。「四間飛車名局集」「矢倉名局集」など、主要な戦法であればネットで探せば見つけられます。
参考にひとつリンクを貼っておきます。
②好きな棋士の棋譜
「好きな棋士の棋譜」を並べるのもいいです。好きな棋士とは、得意戦法や棋風が似ていることが多いかと思います。だから、好きな棋士の将棋は、自分の実戦に活きることが多いのです。
また、自分の好きな棋士の棋譜なら「これを指したとき、どんな気持ちだったのかな」などと想像がふくらみます。すると、その棋士になったつもりで頭がフル回転するので、手筋なども身につきやすくなります。
私自身は藤井猛九段のファンなのですが、棋譜並べをするときは藤井九段になったつもりでやっています。すると解説を読むのも真剣になりますし、その将棋で勝てばうれしく負けたら悔しくて、まるで自分が将棋を指したかのような充実感が得られます。
好きな棋士の棋譜集が発行されている場合は、それを買えばいいので棋譜を手に入れるのは簡単です。藤井猛九段の場合なら「藤井猛全局集」があります。ただ、そういった棋譜集が出ている棋士はごくわずかです。
棋譜集がない場合は、好きな棋士が書いた定跡書を探してみましょう。そこに棋譜が載っていることも多いので、定跡というより棋譜を目当てに定跡書を買うのもひとつの手です。
定跡書の棋譜もない場合は、対局ごとに個別に集めることになります。雑誌「将棋世界」に載った棋譜や、新聞に掲載された棋譜を保存しておいて、自分なりの棋譜集を作ってしまうのもいいでしょう。
ネット中継された将棋を、棋譜を見ながら改めて将棋盤と駒を使って並べてみるのもオススメです。画面上で再生するのとは違った気づきがあるはずです。
③観戦記や自戦記の棋譜
最後に「観戦記や自戦記の棋譜」を並べるというのが、よくある棋譜並べです。この場合、強くなるために棋譜並べをするというよりは、将棋の鑑賞が目的という感じになります。
観戦記や自戦記は「将棋世界」や新聞の将棋欄に載っています。最近のタイトル戦の将棋が取り上げられている場合が多いです。戦型や対局者にこだわらないので、棋譜はもっとも手に入れやすいです。
観戦記や自戦記の棋譜を並べる場合は、将棋の内容以外の部分に楽しみが多いです。対局の位置づけ(勝った方がタイトル獲得など)や、対局者の服装や食事やしぐさ、感想戦でのコメントなど、多くの情報が盛り込まれています。棋士の人間味が感じられるのが、とてもおもしろいです。
私自身、毎月の将棋世界に載っている観戦記や自戦記は、すべて棋譜並べをしています。大きく写真が載っているのもいいです。
自分がよく使う戦法の将棋ではなくても、将棋の手筋や考え方は共通なので、勉強にならないということはないです。ただ、得意戦法の戦法の棋譜を並べるのに比べると上達の効率が少し悪いという感じ。
とはいえ、棋譜並べは楽しくやるのがいちばん大事。観戦記や自戦記の棋譜を並べるのが好きなのであれば、気にせずどんどんやりましょう。
まとめ
棋譜並べとは、本などに載っている棋譜の通りに駒を動かしていくことで一局の将棋を再現すること。レベルの高い将棋に触れることで、将棋の上達に効果があります。
「じっくり並べる」のも「ササッと並べる」のにもそれぞれ良さがあります。また、並べる棋譜も自分が好きなものを選ぶのがイチバンです。
将棋を上達するには楽しくやることが最も大事なので、好きなやり方で棋譜並べをやりましょう!
棋譜並べ以外の将棋の上達法についても、私の著書にまとめています。初心者向けの読みやすい本なので、ぜひチェックしてみてください↓