竜王戦の仕組みは複雑で、
わかりにくいですよね。
その中でも独特なのが、
ランキング戦1組から
決勝トーナメントへの
進出者の決め方。
この特殊な仕組みのせいで
今期は羽生善治九段の
竜王戦でのタイトル挑戦の可能性が
断たれることになりました。
どういうことなのか、
竜王戦の仕組みを
詳しく解説します。
また、ランキング戦1組の仕組みは
こう変えた方がいいのではという
提案もあります。
竜王戦全体の仕組み
まず竜王戦のおおまかな流れは、
以下の通りです。
- ランキング戦
- 決勝トーナメント
- タイトル戦七番勝負
ランキング戦の各組から
勝ち上がった棋士が
決勝トーナメントを戦って、
タイトル挑戦を目指します。
ランキング戦の各組から
決勝トーナメントへ進出できる人数は、
以下の通りです。
- 1組:5人
- 2組:2人
- 3組:1人
- 4組:1人
- 5組:1人
- 6組:1人
決勝トーナメントでの位置は、
どの組の何位かによって
以下のように決まっています。
ここで、
決勝トーナメントへの
進出者の決め方に
注目してみましょう。
2組〜6組に関しては
とても単純でわかりやすいです。
2組ではランキング戦の
決勝まで勝ち進んだ2人、
3組〜6組ではランキング戦で
優勝した1人に決まります。
わかりにくいのは1組です。
ランキング戦1組からの進出者の決め方
ランキング戦1組の仕組みは独特です。
1組からは決勝トーナメントへの
進出者の枠が5つもあり、
単純にどこまで勝ち進めばいい
という仕組みではありません。
まず全体を図で表すと、
以下のようになっています。
わかりやすいのは
1位と2位の決め方で、
優勝者が1位で準優勝が2位。
これはいいでしょう。
3位以下は「出場者決定戦」
というトーナメントを別に行い、
そこで順位を決めます。
3位決定戦はランキング戦の
準決勝で負けた棋士どうしで戦い、
勝った方が3位。
ここまではいいです。
独特なルールとなっており
私が納得がいかないのは、
4位の決め方です。
3位決定戦で負けた方が
4位になるかと思いきや
そうではありません。
ランキング戦2回戦(準々決勝)で
敗退した4人の棋士で
4位決定戦を行い、
それを勝ち上がった棋士が
4位となるのです。
さらに変に感じるのが5位の決め方です。
1回戦でいきなり負けた棋士8人で
トーナメントを戦い、
勝ち抜いた棋士が5位となります。
ちなみに5位決定戦の1回戦は
降級者決定戦も兼ねており、
負けた4名はランキング戦2組に降級
という仕組みもあります。
独特な仕組みで生まれる「被害者」
1組から決勝トーナメントへの
進出者を決めるときに
私がしっくりこないのは、
4位と5位の決め方です。
この仕組みでは、
「ベスト4まで勝ち進んだのに
決勝トーナメントに進出できない棋士」
が必ず一人は出現します。
これはおかしいと感じるのです。
例えば、
実力が他と比べてずば抜けた棋士が
4人いたとして、
この4人が順当にベスト4に残ったとします。
そういった状況でも、
その4人の中で絶対に一人は
決勝トーナメントに進出できない
という仕組みになっているのです。
この竜王戦の仕組みだと
ランキング戦の1回戦で負けても
決勝トーナメントに進出できる
可能性が残されているので、
そいういう立場の棋士には
ありがたいでしょう。
ただ、そのせいで
ランキング戦を順当に勝ち進んだ棋士が
不利になっています。
ベスト4まで勝ち進みながら
4位になれなかった棋士は、
この独特な仕組みの
「被害者」のように思えるのです。
ランキング戦1組の仕組みへの提案
本来なら、
ベスト4まで勝ち進んだ棋士が
1位〜4位となり、
5位はベスト8の棋士から
決めるべきなのではないでしょうか。
つまり、
私が提案する仕組みを
図にするとこうなります。
この仕組みであれば、
ベスト4に進出した棋士は
4人とも決勝トーナメントに進めます。
1回戦で負けた棋士は
決勝トーナメント進出の可能性はなくなり、
「残留者決定戦」を1局だけ戦って
勝てば残留、負ければ降級です。
この方がいいと思うのですが、
いかがでしょうか。
決勝トーナメントへ進めなかった羽生善治九段
2019年の竜王戦で
独特な仕組みの「被害者」
となったのは、
羽生善治九段でした。
2019年5月30日に行われた
ランキング戦1組3位決定戦の
羽生善治九段と木村一基九段の対局。
偶然にもこの対局は
羽生九段の「通算1434勝」
という記録がかかった一局となりました。
羽生九段が勝てば、
大山康晴十五世名人の記録を抜いて
歴代単独1位となるのです。
そのため報道陣がたくさん集まり、
普段とは違う雰囲気で
盛り上がっていました。
ただ、この対局で羽生九段は負け、
「通算1434勝」の新記録はおあずけに。
それだけでなく、
羽生九段はランキング戦1組で
ベスト4まで進出しながら、
決勝トーナメントへの進出を
逃すことになったのです。
前期竜王戦で
挑戦者の広瀬章人八段(当時)に
竜王のタイトルを奪われた羽生九段。
その竜王戦は羽生さんが
「タイトル通算100期」を達成するか
タイトルをすべて失い「無冠」となるかの
大勝負でした。
そのとき奪われたタイトルを
取り返しに行こうとしていた
今期の竜王戦でしたが、
竜王戦独特の仕組みによって
その夢が断たれたことは悔やまれます。
仕組みというのは
あらかじめ決まっていたことなので
仕方がないのですが、
対局の結果とは別のところでも
ドラマは起こっているのです。
まとめ
竜王戦のランキング戦1組の
仕組みは独特です。
1回戦で負けても
決勝トーナメント進出の可能性が
残される一方で、
ベスト4まで勝ち残っても
4位になれない棋士が
毎年必ず1人出てしまいます。
今期竜王戦でその立場となったのは、
歴代最多勝利の新記録達成が期待された
羽生善治九段。
竜王戦の独特な仕組みの
「被害者」になったともいえる形で
竜王挑戦への望みは断たれたのでした。
竜王戦の仕組みについては
こちらの記事もどうぞ。
他のタイトル戦の仕組みについては
こちらで解説しています。