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「ものの歩」全5巻の感想、連載打ち切りの理由を2つ考えてみた

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「ものの歩」全5巻の感想

「ものの歩」は将棋を題材にしたマンガです。全5巻を読んでみたところ「けっこうおもしろい!」と感じました。しかし「ものの歩」は週刊少年ジャンプで連載打ち切りになってしまった作品です。

なぜ人気が伸びなかったのか、私なりに考えてみました。結論から書くと理由は以下の2つです。

  1. 主人公のライバルがいない
  2. かやね荘の奨励会員の深堀り不足

私は将棋が好きで、アマ四段の棋力があります。将棋マンガを読むのが好きで、15年ほどにわたって数多くの作品を読んできました。そんな私の考察を、他の作品との比較をまじえつつ、まとめました。

本文中にはネタバレがあるので注意してください。冒頭のイラストは私が描いたものです。

目次

将棋を題材にした「ものの歩」

「ものの歩」は2015年から2016年にかけて、「週刊少年ジャンプ」で連載されました。将棋の盤面も力を入れて用意されており、監修は橋本崇載八段です。

ただ人気はあまり伸びなかったようで、全43話で連載打ち切りとなりました。単行本は全5巻です。

最終第5巻では突然の連載終了に関して、作者の池沢春人さんが本編の合間のページでコメントしています。ここでは3つ引用します。

(斑木王四郎は)奨励会編でのライバルの予定でしたが登場の瞬間に連載終了が決まったため全く回収できなかった不運の子。
信歩が王四郎に引っ張られて成長、勝つまでを描けなかったのは少し残念です。

(歌川雪之丞は)連載終了の知らせを受け、せめて金ちゃんだけでも回収を!と設定てんこ盛りでの単体登場となりました。

奨励会編が本場だ!と意気込み描き進めておりましたが、諸事情によりここで連載終了となってしまいました。
描ききれなかったキャラクターや回収できなかった伏線など多くありますが、連載前から本当に描きたかったいくつかの話は満足が行くように描けましたし、ラストも、今できる事は精一杯やれたかと思いますので、悔いはありません。

やはり本当はもっと続けたかったのに打ち切られてしまった、ということのようです。

ちなみに言うまでもないかなとも思いますが、「ものの歩」というタイトルは「もののふ=武士」にかかっています。本編では「武士(もののふ)」に関するセリフ等は一切なかったので、「回収できなかった伏線」のひとつなのかもしれません。

「ものの歩」のストーリーは、高校1年生の主人公・高良信歩(たからしのぶ)が将棋に出会い、プロを目指しながらどんどん強くなっていくというもの。少年の成長を描く王道の展開です。

不器用で周囲の人から認めてもらえず、苦しい思いをしていた信歩が、将棋を通してイキイキと輝いていきます。第1巻はこちらなので、興味があれば読んでみてはいかがでしょうか。

「ものの歩」を読んだ感想

私はつい最近「ものの歩」を全巻通して読みました。読むきっかけになったのは、電子書籍の全巻セットが安く売っていたからです。

「ものの歩」の存在自体は以前から知っていて、ネットの試し読みで第1話を読んだこともありました。せっかくの機会なので買ってみて、今さらながら一気に全巻を読んでみたわけです。

感想としては「けっこうおもしろいぞ!」と思いました。対局シーンは盛り上がって、キャラクターに感情移入できます。

主人公の前に敵として現れる対局者たちが、どんな思いを抱えて戦っているのか。そして、主人公との対局を通じて何を感じるのか。そういう内面のぶつかり合いが伝わってきました。

主人公と敵役の両方が対局を通じて成長していく様子は、とてもすがすがしいです。熱く燃える信歩の対局、私が選ぶベスト3をこちらの表にまとめました。

スクロールできます
対局相手どんな相手か対局の舞台信歩から見た勝敗何巻の話か
相楽十歩高校生プロゲーマー公民館での大会×2巻
岬真悟高校三年生・将棋部主将都大会準決勝3巻
仙國元春高校三年生・将棋部主将都大会決勝×4巻

「これだけ面白いのに、どうして連載打ち切りになったんだろう?」と、思わず考えてしまいます。

「週刊少年ジャンプ」は読者からのアンケート結果を重視して、連載作品を決めることで有名です。連載が打ち切られたということは、読者からの支持が得られなかったということです。

なぜ人気が伸びなかったのでしょうか。私が考えた2つの理由を順に解説します。

理由①主人公のライバルがいない

主人公のライバルがいない

理由の1つ目は「主人公の絶対的なライバルがいなかった」ことです。

私は「ものの歩」を読んでいて「ヒカルの碁」が頭に浮かびました。同じく週刊少年ジャンプで連載され、全189話、単行本にして23巻まで続いた人気マンガです。

「ものの歩」と「ヒカルの碁」は、ストーリーの流れがよく似ています。以下の通りです。

共通するストーリーの流れ
  1. ゲームのルールすら知らない主人公
  2. 才能がありメキメキと上達
  3. 学校の部活で団体戦に出場
  4. プロ養成機関に入ってプロを目指す

この2つの作品、もちろん違うところは色々あるのですが、私が一番気になった違いはライバルの存在です。

「ヒカルの碁」では塔矢アキラという主人公のライバルがいて、彼と主人公の関係が物語の骨格になっています。私は中学生の頃に「ヒカルの碁」が大好きだったのですが、当時から一番の見どころと思っていたのは「主人公と塔矢アキラのバチバチしたライバル関係」でした。

一方の「ものの歩」の場合、塔矢アキラに相当するようなライバルが信歩にはいません。やはりこういう成長物語にはライバルの存在は必須であり、「宿命のライバル」がいないのは人気を得るうえでは大きなマイナスになったと思われます。

ものの歩では主人公の高良信歩は色々な相手と対局します。その対局の途中で相手の過去の話が盛り込まれ、相手が対局にかける思いなどが伝わってくることで、物語が盛り上がるのです。

ただ問題は、盛り上がりがその一局限りとなってしまっていることです。次の対局が始まれば、新たな相手の過去の話がまたゼロから始まり、つながりが感じられません。そのため信歩には物語全体を通じたライバルがいつまでもできませんでした。

いちおう相楽十歩(さがらじっぽ)とはライバルのような関係ができたのですが、きちんとした舞台で信歩と対局したのは、出会ったときの一局だけでした。連載が続いて相楽十歩との再戦があれば、盛り上がっただろうなと思います。

それに対して、信歩の団体戦のチームメイトである藤川竜胆(ふじかわりんどう)には、明確なライバルが設定されていました。小学生のころから関係が深い百合峰蒼馬(ゆりみねあおば)です。

藤川竜胆はつねに百合峰蒼馬のことを意識しており、彼のことで頭がいっぱいでした。この二人の対局もアツかったです。こういう存在が、主人公の信歩にもほしいと思いました。

信夫は将棋のルールすら知らなかったという設定なので、昔からのライバルを用意するのは難しかったのでしょう。本当であれば、信夫が住む「かやね荘」にライバルがいればいいのですが、そういう展開にならなかったのは、もったいないと感じました。

「かやね荘」は「ものの歩」に独特なおもしろい舞台設定で、奨励会員たちが共同生活をしているシェアハウスです。ちなみに奨励会員というのは、プロ養成機関である奨励会に所属して、本気でプロ棋士を目指している人のことです。

「ものの歩」は手違いによって信歩が「かやね荘」に入居するところから物語は始まります。本来ならつねに身近にいる同居人なら
共に成長していくのにはうってつけで、良いライバル関係になれそうです。

ただ信歩の他に5人も同居人がいるのに、主人公以外はすでに奨励会員なので、全員が圧倒的な格上でした。差がありすぎて、ライバルにはなりません。「かやね荘」で初心者の信歩が将棋を指しても、その実力差のせいでなかなか熱い展開にならないのが苦しいところでした。

こうした事情があるため、主人公の戦いの場は「外」に求めざるをえません。具体的には近所の公民館での大会や、高校生の将棋部の団体戦などです。そのせいで「かやね荘」の存在感が薄くなってしまいました

そしてこの点が、私が考える「連載打ち切りの理由その2」につながります。

奨励会の厳しさについてはこちらの記事に詳しく書いているので、もし興味があればどうぞ。

理由②かやね荘の奨励会員の深掘り不足

かやね荘のメンバーの深掘り不足

理由の2つ目は「かやね荘のメンバーが深掘りされなかったこと」です。ちなみに「かやね」とは榧(かや)の駒音(こまね)が鳴り止まないことからの名付けだそうです。

「かやね荘」の奨励会員たちは物語の中でもっと活躍できたはずなのに、もったいなかったと感じました。主人公以外のメンバーは以下の5人です。

かやね荘の奨励会員
  • 直井泰金 25歳
  • 県銀雅 24歳
  • 弥代桂司 16歳
  • 櫻井香月 16歳
  • 風丘みなと 15歳

唯一の女の子である風丘みなとが、かわいくてエロくて、連載時にも人気だったようです。ちなみに他の4人は名前に将棋の駒の漢字が入っているのに、みなとだけないのは不思議な感じがします。

1巻の最初のころこそ「かやね荘」のメンバーが活躍していたものの、話が進むに連れて出番がなくなっていきます。2巻〜4巻は信歩の大会の話、5巻は奨励会入会試験の話なので、「かやね荘」はあまり登場しないのです。


「かやね荘」にいる人達はそれぞれ色々な事情を抱えていると思われます。特に高校生の年齢の奨励会員たちは、親との関係なども複雑なものがありそうです。

そういったところを掘り下げていけば、おもしろい話がたくさんできたはずです。なんなら一人ずつ順番に焦点を当てて、群像劇を描くこともできたでしょう。それならば「寮」という物語の舞台をうまく活用しています。

5巻の最後に、ようやく直井泰金だけは深く描写されたので、それは良かったです。ただ「ものの歩」の物語の最後の山場を、主人公の信歩ではなく直井泰金が持っていくことになってしまいました。

周囲のキャラクターを細かく描写していくと、メインテーマである「主人公が将棋を強くなってプロに上り詰めていく」という物語の方がおろそかになってしまう恐れがあります。バランスが難しいところです。

また他の作品と比べてみましょう。

将棋で群像劇を描く作品といえば「3月のライオン」や「りゅうおうのおしごと!」があてはまります。この2つの作品では、
主人公の成長を描きつつも、その周囲の人たちの描写が多いのが特徴です。そしてメインテーマから外れているにも関わらずとてもおもしろくて、長年にわたって作品が続いています。

主人公の成長から話題がずれてしまっているのに、どうしておもしろくて、物語が成立するのでしょうか。

改めて考えてみて、わかったことがあります。それは2つの作品とも、物語の開始時点で、すでに主人公がかなり強いということです。

「3月のライオン」の桐山零は17歳でプロの五段。「りゅうおうのおしごと!」の九頭竜八一にいたっては16歳で「竜王」のタイトルホルダーです。

両者とも、もはや将棋の「伸びしろ」がもうあまりないので、ガンガン強くなっていくのは現実的ではありません。だからこそ他のキャラクターに焦点を当てるのが理にかなっているのだと言えます。

「3月のライオン」であれば三月町に住む川本3姉妹の物語が描かれます。「りゅうおうのおしごと」であれば、主人公が女子小学生の弟子を二人も引き受け、彼女らの成長の物語が展開するわけです。

一方で「ものの歩」は、「主人公自身の成長の物語」なので、そこをとにかく大事にするべきでした。それなのにかやね荘という、「群像劇」が展開されると読者が期待してしまう舞台を持ち込んでしまいました。その結果「アレコレ盛り込みすぎ」になってしまった気がします。

「ものの歩」では、かやね荘でいっしょに住んでいる「ワケあり」っぽい人たちを放っておいて、かやね荘の外ばかりで話が展開していきます。積み残された問題がいつまでも解決されなくて、読者の不満がたまってしまったのでは、と感じられました。

「主人公の急激な成長」と「群像劇」を両方やろうとすると、どちらも中途半端になって消化不良になってしまうということとだと思います。

まとめ

ここまで語ってきた「ものの歩が連載打ち切りになった理由」は以下の2つです。

  1. 主人公のライバルがいない
  2. かやね荘の奨励会員の深堀り不足

「ヒカルの碁」のように主人公の成長とライバルとの戦いの話に絞るか、「3月のライオン」や「りゅうおうのおしごと!」のように主人公の周囲の人たちの物語で盛り上げていくか。

どちらかに決めないといけなかったのではないか、というのが私の意見です。「ものの歩」では、どちらも中途半端に感じられました。

「ものの歩」は、けっこうおもしろいマンガでした。それだけに、連載打ち切りとなったのはもったいないと思います。打ち切りにならなければ描かれるはずだった、信歩の奨励会での戦いも見たかったです。

「週刊少年ジャンプ」で連載を続けるのは大変なようです。他誌も含めて、将棋マンガが打ち切りになるのは、私もこれまでにたくさん見てきました。

ただあえて言えば、全5巻という短さで収まったことで、気軽に手を出しやすくなったとは言えます。もしまだ「ものの歩」を読んだことがないのであれば、この機会に読んでみてはいかがでしょうか。

他の将棋マンガの感想も書いているので、よかったらのぞいてみてください。

>>将棋マンガ感想の記事一覧

「ものの歩」全5巻の感想

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